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ペルソナシリーズをはじめとするメガテン関連?

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Porta Nigra

 長く暗いトンネルを抜けると、そこはどんより淀んた霧の国だった。
 ガタガタと電車の振動が身体を揺らして、鵠は閉じていた目を開く。ぼんやりとした顔で周囲を見渡す。
 ボックス席には鵠一人だけだ。目を閉じる前は向いにも乗客が居たような気がするが、いつの間にか降りてしまったのだろう。
 外の風景は長閑で遥か遠くまで見通せる田畑が広がっている。時折ある民家がぽつりとしていて少し侘しい。そこにある木々の匂い、水の匂いが誰の胸にも眠る郷愁の思いを呼び起こさせる事を知っている。
 車外の風景に都会の匂いは感じられない。八十稲羽発の電車に乗ってからだいぶ経っている気がしていたが、眠っていたと感じていたのはほんの少しの間だったようだ。
 目を閉じれば先程別れたばかりの仲間たちと、もう一つの家族たちの顔が浮かんでくる。彼らを思い出せば心の中は暖かい何かで満たされて、この一年が自分にとって如何に特別であったかが良く分かる。
 次に会えるのは五月の休みあたりだろうか。学生時分には頻繁に行き来するのは難しいかもしれないが、出来るだけ彼らに会いに第二の故郷を訪れたい。
 不可思議な事件を通して、この一年は何物にも代え難い大切な時間となった。そこで、かけがえのない大切なものを手に入れた。きっと生涯これは胸にずっとあり続けるのだろう。
 電車が進めば進むほど、愛した土地とは遠く離れて行く。愛したものたちとも離れて行くのが、とても寂しかった。まだ実感は薄いけれど、実家に戻ってしばらくは思い出しては寂寥感に駆られるかもしれない。

 鵠は小さくため息を吐いて、時刻を確認しようとポケットの携帯を探る。
 そこで、初めておかしな事に気がついた。
 携帯は上着の右ポケットに入れていたはずだ。だが、そこに携帯はない。
 それどころか。
 何故、自分は八十神高校の学ランを着ているのか。
 確かに私服を着て帰京についたはずで、身にまとっているのは黒のジーンズとジャケットだった。けれど、今身を包んでいるのは開襟Yシャツにステッチの入った八十神高校の黒い制服だ。
 まだ夢の中なのだろうかと、鵠は小さく首を傾げ胸ポケットを漁った。制服ならばいつもそこに携帯を入れてある。
 指先に冷たく固い物が触れる。つまんで取り出すと、黒いメタリックな携帯電話が出てくる。やけに綺麗だ。まるで、機種変更で変えたばかりの新品のように。記憶では一年近くの戦いのせいで、表面は結構な傷だらけになっていたはずだ。
 手の中で硬質な感触はリアルだ。とても夢とは思えないくらいに意識ははっきりしていて、周りにはなんの変哲もない車内の風景が広がっている。
 鵠は携帯を開いた。待受画面は白い猫のおすわり写真だ。実家の近所の老婦人が飼っているヒメに間違いない。だが、八十稲羽から帰る前は着ぐるみ姿のクマの写真にしていたと思う。
 そこで、表示されている日付と時間が目に入った。
 鵠は大きく目を見開く。そこに表示されていたのは、2011年4月11日の文字。
 取り落としそうになった携帯を握りしめて、跳ね上がった動悸を抑えようと呼吸を整える。嫌な汗が背を伝った。
 今日は2012年3月21日だ。海外赴任だった両親が日本に帰ってきたので、一年間世話になった叔父の家から帰省する日だ。自分は、中央へと戻る列車の中にいるのだ。
 それが紛れもない事実だというのに、この不安はなんだ。何かがおかしい、どこかが狂っていると感覚が訴えいてる。
 鵠は携帯を膝の上に置いて、ポケットをさらに探った。
 ない。
 皆で撮影した大切な写真がない。どこにもない。ポケットから出てきたのは食べかけのガムくらいだ。緑のガムのケースには見覚えがある。一年前に八十稲羽へ向かう電車に乗る前にキオスクで購入したものだ。
 鵠は慌てて携帯を手にして、震えそうになる指でボタンを操作する。アドレス帳を表示させて、相棒の名前を探す。
 ない。
 どこにも花村陽介のアドレスがない。里中千枝も天城雪子も巽完二も久慈川りせも白鐘直斗も、誰もいない。携帯のデータは一年前の状態なのだ。
 なんだこれは。
 夢、としか考えられないのに。
 じっとりと滲んでくる手汗や、テンポを早める心音も、ガタガタと揺れる列車の音も何もかもが生々しく現実的で、どこにも夢のような儚さはない。
 突然、ブルブルと携帯が震えた。驚いたあまり手から滑り落としそうになりつつも慌てて掴んで、二つ折りの携帯を開く。新着メール受信。発信者は堂島遼太郎だ。
 喉がごくりと鳴った。覚えのある、メールだ。
 鵠はこわごわとボタンを押して、メールを開いた。
『駅まで迎えに行く』
 内容も、まったく一年前と同じだ。
 凍りつきそうな身体を溶かすように、ジジと古いスピーカーから車内放送が大きく響いた。若い男の車掌が、次の駅を告げる。

「次は~八十稲羽~八十稲羽~」

 携帯を握りしめた鵠の口から、乾いた短い息が一つ漏れた。

 電車を降りて、スポーツバッグを肩に掛けて改札をくぐる。自然と足が鈍くなってしまうのを止められない。
 駅の外へと出れば、叔父である遼太郎と従兄弟の菜々子が車で待っている。
 そして、こう言うのだ。

「よぉ。写真より男前だな」

 寸分違わない台詞を口にして、曇のない笑顔を見せた遼太郎に鵠は硬直してしまった。
 夢ではない、のか?
 一年前と全く同じ光景。同じ行動。けれどどうしても感覚は記憶を辿っているだけとは思えない手触りだ。
 鵠は少し考えて、一年前と違う言葉を口にしてみる事にする。あの時は、よろしくと口にした。

「……はじめまして、真澄鵠です」
「はじめましてか、ハハ、オムツ換えたこともあるんだがなぁ」

 遼太郎は頭をかきながら男臭い苦笑を浮かべた。
 違う。過去の遼太郎とは、よろしくなと笑って握手をしたのだ。どうやらまったく同じではなく、行動によっては結果が変わるようだ。
 だが、それが分かった所で、夢から覚めるわけではない。
 鵠は釈然としない気持ち悪さを覚えながら、遼太郎の迎えの車へと乗り込んだ。

 ガソリンスタンドについて給油していると、一年前と同じようにバイトの青年が気さくに話かけてくる。不思議な雰囲気の青年だったので、今でも良く覚えていた。

「この町へようこそって僕が言うのも変かな」

 差し出されて手を、握る。軽く交わした握手の感覚も、あの時と変わらない。ひんやりとしていた青年の手の感触の残る手を、ぼんやりと見つめていると菜々子がトイレから戻ってきた。
 おかえりと声を掛けようとして、グラリと視界が歪んだ。軽い眩暈。世界が、回る。

「大丈夫?」

 淡い期待をいただいたのに、夢は覚めてはくれなかった。心配そうな顔をした菜々子に、大丈夫だと微笑む。この行動も何ら、変りない。
 どこまでこのおかしな夢は続くのか。
 再び車に乗り込んで堂島家に着くまでの間、鵠はひたすらに背筋を這い回る悪寒と戦っていた。

 堂島家に到着すると、そこはつい数時間前までいたはずなのに妙な懐かしさを感じた。
 こんなに早く帰ってくることになるとは思わなかった。いや、正確には帰ってきているわけではないのだが。

「お前の部屋は二階だ、自由に使っていいからな」
「ありがとうございます。荷物、置いてきますね」

 鵠は引き攣りそうな表情筋をなんとか動かして笑顔を作り、荷物を持って歩きなれた階段を上がる。ギシギシと立て付けの悪そうな音がする所も忠実に再現されている。
 自室に割り当てられた部屋の扉を開くと、実家から送っていたダンボールが積まれている。数も配置も、一年前とまったく同じだ。おそらく中身も。
 スポーツバッグを床に降ろした鵠は、酷い疲労感を感じてどさりと黒革のソファーへ腰を降ろした。
 自然と深い溜息が出る。夢なのに疲れているというのもおかしい。ここに来たばかりの自分は、もっと元気があったはずだ。
 さっさと目が覚めてくれ。
 中央行きの車内で眠っているはずの自分へと心の中で声を掛ける。そして、実家へと戻ってまた元の生活を始めるのだ。
 こんな風に思い出を繰り返すのは、辛い。大切すぎるから苦しい。同じように最初から始めたところで、意味なんてないのだ。大切なたった一つの記憶はこの胸にある。
 鵠は己の胸に手を当てた。夢は深層心理の現れというから、よっぽど自分は八十稲羽から離れがたいのだろうかと思ったのだ。
 心の中を探るように覗き込もうとして、そこに宿る存在に気がついた。
 人には仮面がある。いくつかの、己を覆い守り戦わせる仮面が誰の心にも宿っている。
 それを、具現化したのがペルソナだ。

「……まさか、」

 ワイルドの力を持つ鵠には複数のペルソナが宿っている。だがそれは、戦いを初めてベルベッドルームへと招待されてからの話だ。
 最初のペルソナが発現するのは15日のテレビ内だ。この時点ではまだイザナギは出てきていなかった。
 だというのに、己の中には慣れ親しんだいくつかの感覚が存在している。

「……ペル、ソナ」

 震える唇から、言葉が溢れた瞬間。
 ブワリと大きく風が足元から舞い上がるように体の奥底から、魂の欠片とも言うべき仮面の姿が己が頭上へと浮かび出た。神々しき光を纏った神の身使い、六枚羽の大天使ルシフェル。大事な仲間であるクマとの絆の証とも言えるペルソナだ。
 ルシフェルは呆然とする鵠を抱くように撫で、大回復技であるメシアライザーを唱えて淡く消えて行った。キラキラとした暖かな光を残し。

「……嘘、だろ」

 ルシフェル以外にも、マダ、ベルゼブブ、サタン、イシスなどのペルソナが宿っている感覚がある。このペルソナたちは確かに自分が八十稲羽を出る最後まで身につけていたものたちだ。
 何の冗談だ。
 時間は一年前を繰り返しているのに、この身体だけが時空を超えたように一年後の己のままだ。培った能力も記憶も、そのままの自分だ。
 けれど、確かに日付は4月11日を示していて、起きている事柄もその時と変わらない。
 これは、何の冗談だ。
 おかしい、なんてものではない。

「……悪い夢、だ」

 夢ではない。
 もう分かっているのに、鵠は乾いた声で微かに笑った。
 
 
 
  
 
 
 
 
 
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オフ本Porta Nigraより冒頭抜粋

作品名
Porta Nigra
登録日時
2009/12/28(月) 08:34
分類
ペルソナ4::SS(千里)
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