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ペルソナシリーズをはじめとするメガテン関連?

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雨に滲む海の裏側(同人サンプル)

 暗く狭い部屋の中にいる。
 そう思って回りを見たが、どこにも壁などない。何も見えない闇の中だ。
 どろりと指先に感じる感触には覚えがあった。ああ、またあの海の中だ。
 目の前には相変わらず自分の姿を映した鏡がある。鏡の中には辛気臭い顔をした男が、海の水にも劣らないほど暗い瞳でぼんやりと突っ立っている。
 陽介は手を伸ばした。やはりコツリと無機質な壁にあたって、鏡の中の自分には手が届かない。それに何故か少し安堵する。

「なぁ、どうしたらいい?」

 答えが返ってこないことを分かっていて、再び声を掛けた。自問自答にもならない。答えなどわかりきっているからだ。
 この思いは不毛だ。意味のないものだ。捨てるべきものだ。
 そう、言われてしまえばいっそ諦めもつくのかもしれないと思って、自分に問うた。自分ならば、望む答えを返してくれると思ったからだ。

『どうするもこうするもねーだろ』

 海の中だというのにその声はやたらと反響して耳に届いた。
 自分一人しかいないと思っていたのに声が返ってきたことに陽介は驚いて、あたりを見回す。目を凝らしてもどこまでも闇が続くだけで、誰の気配もない。
 戸惑う陽介をよそに、声は続く。

『くくっ、苦しいかよ?』
「だ、誰だよ?!」

 あたりをキョロキョロと見回しながら、陽介は暗闇の中で叫ぶ。例えようもない不安が胸に満ちて、誰でもいいから人の姿を探すが、閉ざされた世界の中では何も見えない。その声以外は何の音もしない。
 声の主を探す陽介の元に、反響して聞こえづらかった声が、今度は一定の方向から聞こえてきた。

『わかってんだろ?』
「……ぁ、お、俺……?」

 わかっていて認めたくなかったのかもしれない。おそるおそる目線を戻した陽介の目の前、鏡の中にその声の主はいた。鏡に移る姿はもう陽介自身ではない。
 唇は歪んだ笑みを浮かべ、闇の中で金色に爛々と光る目は悪意に満ちている。それは陽介と寸分たがわぬ姿でありながら、人のいい陽介が絶対にしない表情を浮かべている。
 もう一人の自分がそこにはいた。
 陽介は、その存在を知っている。

『我は影、真なる影……。くくく、お前は俺で、俺はお前だ……!』
「俺の、シャドウ……ッ! なんでお前が……?!」

 陽介が浮かべた驚愕の顔を、シャドウは鏡の中で唇を釣り上げて愉快そうに笑う。心から本体を馬鹿にしている、そういう笑い方だ。
 だが陽介は腹が立つよりも、何故ペルソナ化したはずのシャドウが今になって自分の前に現れたのかという事の方が気になっていてそれどころではない。
 もう二度と見ることはないと思っていた醜い姿の自分自身。陽介の影は動揺する陽介の様にニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた。

『なんで? 決まってんだろ、お前が望んだからだよぉ!』
「知らない! 俺はそんなこと望んでない!」
『ははは、嘘ばっかだなお前は。可哀相になあ~? つきたくもねー嘘ばっかついて、苦しくて苦しくてしょうがない、誰か助けて~ってなあ! ……だぁから俺が出てきてやったんだろうが!』
「ち、違うッ、たしかに苦しかったけど……っ、でもお前に助けなんて……!」

 陽介は思わずシャドウへと手を伸ばす。だがそれは鏡の板に阻まれた。そのまま苛立ちにまかせて拳で叩くが、水が波打つだけで影にはなんのダメージもないようだ。変わらず向こうの世界でケタケタと笑うだけだ。
 影は陽介の言葉にますます唇を釣り上げる。心底愉快と腹を抱えて大袈裟な仕草で陽介を追い詰める。

『ギャッハッハ、お前は本当に学習しねー馬鹿だなァ? いいぞ、そうやって否定しろ、抑圧しろ! お前が自分を否定すればするほど、俺の力は強くなるんだ』
「そん、な……どう、したらいいんだよ、じゃあ!」

 影が姿を現した原因なんて言われなくても自分の中にあることはわかっていた。
 鵠への想いを良しとせずに封じ込めて、自分に嘘を付き続けた結果だ。
 もっと思い切りよく相手ごと想いを切り捨ててしまえたら、こんな風に抑圧された己の内面に見えずに済んだかもしれない。けれど、それこそが陽介であるゆえん。すっぱりと諦められるならば、ネガティブなスパイラルに陥ってなどいない。
 陽介が苦しげに頭を抱えて呻くと、シャドウは待ってましたとばかりに目を光らせた。

『バーカ、悩む必要なんてねぇよ。欲しいんだろ、アイツが』
「欲しい、けど……ッ、ダメだ……!」
『なんでだよ』
「だって男同士だし、俺の事なんて見てくれるわけ、ない……。嫌われたくないッ、それだけは絶対にイヤだ!」

 目尻に涙を滲ませて陽介本体が呻く。シャドウはそれをあざ笑うように鼻で笑った。
 負の部分を寄せ集め、抑圧された欲望の塊ともいえる影には本体の苦悩など意味がない。そんなものには紙切れ一枚ほどの興味もない。
 興味があるのはただ一つ、欲望の対象だけだ。

『欲しいなら、手に入れればいい! 嫌われたくない? じゃあお前は嘘ばっかついてる自分を好きでいて貰えりゃ満足なのかよ?!』
「それ、は……っ、」

 なんでもないような顔でずっと傍にいる。それはとても苦痛を伴う行為だということは身を持って理解している。
 離れたくはないけれど、気持ちを告げる勇気はない。どうせ嫌われるのならば、何も言わずに傍にいることを選んだ。
 嘘なんて吐きたくはないけれど、鵠の傍にいるということは自分を偽る事に違いないのだ。
 どうしたら、どうすれば。
 何処へもいけずに蹲る心の四肢を、シャドウが容赦なくちぢに引き千切っていく。
 苦しげに鏡に縋りつくように爪を立てる本体に、陽介の影はぴとりと身を寄せた。透明のガラス一枚を挟み、光と影が密着する。仲の良い双子の様でもあり険悪な他人の様でもある。
 陽介の苦しみと涙を救うように、影の手は薄くて硬い硝子の表面を優しく撫でて囁いた。

『くく……、なぁ、くだらないプライドなんて捨てちまえよ……?』
「やめろ……」

 毒のようにシャドウの言葉は心に染みを作る。じわじわと汚染されて、身動きが取れなくなっていく。

『苦しいんだろ……? 辛いんだろ……? 楽になりたいよなあ……?』
「言うな……!」
『可哀相になぁ俺……、もう無理しなくていいんだぜ……?』
「いや、だ……っ」

 鏡にもたれていた陽介の身体から力が抜けて行く。ずるりと鏡を伝い座り込んでしまう。
 影の声が耳の中を頭の奥を反響する。
 苦しい、辛い、楽になりたい。すべて吐き出してしまいたい。
 イヤだ、嫌われたくない、傍にいたい。
 全ての感情は陽介の中に同時に存在していて、複雑に絡み合って陽介自身を雁字搦めにしている。助けを求めて伸ばした手を取ったのはシャドウで、陽介はその手を振り払えなくなっている。
 嫌々と頭を力なく振る本体を見て、奥底に隠した本音を凝縮した影は高らかに笑った。

『欲しいんなら、奪えばいいだろ? ……そう、無理矢理にでも、さ!』

 バリバリバリッと硝子にひびが入った。
 蹲った陽介の頭上で、シャドウの突き出した手によってそれは粉々に砕け散る。
 暗闇の中、シャドウの黄金色の目の光を反射して輝くガラス片が当たりに飛び散った。
 硝子の洗礼を浴びながら、陽介は叫んだ。何を叫んだかは分からないけれど、喉からほとばしるままに。

 ジャリッと硝子を踏みつける音がする。
 ふわりと背中から肩に手を置かれた。そして、震える肩口に誰かの気配。

『お前が出来ないなら、俺が手に入れてやるよ……』

 優しく甘く、囁いた声は暗闇の中に解けて消えた。
 
 
 
 
 うだるような暑さの中、スーパーの袋を二つぶら下げた男子高校生が歩いている。夕暮れに染まった鮫川の土手は静かで、もうすぐ夕飯時だからか人通りは少ない。
 田舎である八十稲羽の町は蝉の鳴き声がけたたましく、遠くでは子供の遊ぶ声が聞こえる。日本の正しい夏を感じさせる風情だ。
 都会からの転校生である高校生、真澄鵠はテレビでしか見たことのないような古風な稲羽の夏に軽い感動を覚えていた。
 時刻はもう六時過ぎだ。妹のように可愛がっている従姉妹の菜々子もおなかを空かせて待っているだろう。
 買い物袋はそこそこ重かったが彼女が喜ぶ顔を思い浮かべれば苦ではない。
 頭の中で今日の献立を吟味していた時だった。
 後ろに人の気配を感じる。何故かチリッと首の後ろの産毛が焦げるような感覚に足を止めて振り返ると、そこには良く見知った人間が立っていた。
 血の様に真っ赤に滲んだ夕日の逆光で表情はよく分からないが、間違いなく友人の花村陽介だ。
 黙って立っている姿に鵠は少し驚いたが、今日の放課後は突然顔色を変えて帰ってしまったので心配していたので声を掛けた。

「陽介? さっきは具合……」

 具合悪かったのは大丈夫なのか、と言葉を続けようとしたが途中でピタリと舌が停止した。
 夕日に浮かぶシルエットが、長い棒のようなものを持っていることに気がついたからだ。
 喋らない陽介、その違和感に気がついて、鵠の警戒が頭を擡げ掛けた時。

 ヒュオンッと空気を切って、それは迫り来た。

 咄嗟に一歩引いて避けたのは奇跡的だった。 
 空中に孤を描き、ガキンと地面を抉ったのは金属バットだ。夕日の赤を反射する鈍い銀色が、スポーツの道具ではなく凶器の色を濃く宿す。
 鵠は目を見開いて陽介を見る。けれどその表情は相変わらず暗く翳って窺い知れない。

「何するんだ、陽介ッ?!」

 動揺している人間よりも、襲撃者の方が行動が早いのは道理だ。
 いつもは小型ナイフを二本扱っている腕が金属バットを握り締めている。その力の入り方に、確固たる意思を感じる。
 陽介は無言のまま、今度はバットを勢い良く繰り出してきた。
 親しい相手に襲われるという状況に驚愕しつつも、鵠は咄嗟に腕でガードしようと思ったが、運悪く両手はスーパーの荷物で埋まっていた。そして、相手が陽介だという油断が彼を一瞬無防備にした。

 ゴツッという鈍い音と共に、鎖骨あたりにバットの尖端を打ち込まれた鵠は勢いで後ろへ飛んだ。背中から倒れこまなかっただけ、戦闘慣れしていたお陰だろう。なんとか右足を擦って踏みとどまった。
 だが、もろに鎖骨に入ったバットの衝撃は並ではなかった。鵠は買い物袋を取り落とし、膝を着く。

「ぐっ……ッ、な、……に……」

 痛みで気が遠くなる。骨が折れたかヒビが入ったか、一瞬詰まった息を吐き出すべく咳き込むと激しく痛んだ。
 突然襲われて何がなんだかわからないが、これは危険だと判断した鵠が立ち上がろうとした時。
 すでに、遅かった。

 顔を上げる前に振り下ろされたバットは鵠の後頭部にまともに入った。脳へ強い衝撃が走る。
 くらりと意識が揺れ、視界がかすんだ。
 まずい、そう思っても体はもう言う事を聞かない。
 倒れる直前、見上げた視界の端に写った陽介は、夕日の中で笑っていたようだった。
 
 
 
 
 
 
 

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同人誌「雨に滲む海の裏側」より抜粋

作品名
雨に滲む海の裏側(同人サンプル)
登録日時
2009/08/03(月) 14:08
分類
ペルソナ4::SS(千里)
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