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ペルソナシリーズをはじめとするメガテン関連?

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クリスタルクラウン(同人サンプル)

影主×陽介
しかしサンプル部分には腐的要素全くなし


「クリスタルクラウン」

 人は余りに目まぐるしく受け入れ難い展開が次々と起こると、脳がそれを処理することを放棄し、冷静な判断が出来なくなったり、壊れてしまうことがある。
 今のこの現状も、たった今起こった事実を事実として受け入れられず、冷静な判断を下せる思考回路が麻痺して、頭に血が上ってしまっているのだ。物事を客観的に冷静に考えられない状況下では、どうしても感情が優先される。
 特に、今までずっと追い掛け続けていた憎い犯人が目の前にいるとすれば、その感情は激流と化すだろう。
 花村陽介は、無意識のうちに握りしめていた拳を改めて握りなおした。皮膚に爪が食い込む。その痛みが、今起こっているこれは現実なのだと、認識できる唯一の感覚。
 吐き捨てるように、陽介は口を開いた。

「このまま、ただここを出てくなんて、俺には出来ねえ」

 しん、と静まり返った場所に、陽介の言葉が落ちる。

「わ、分かるけど、でも……」
「病室にこんな大きなテレビがあるなんて思いませんでした……。こんな物が置いてあるんじゃ、この男はいつ逃げ出して居なくなっても仕方ない……。もっとも、一度入ったら……自力で出る方法なんて無いかも知れませんけど」
「ちょっと待ってよ! それって……まさか……、本気……なの……?」

 稲羽市にある唯一の総合病院。その第二外科病棟の最上階の最奥にその男はいた。
 その年の四月の頭に、市民を震撼させた連続殺人犯で、誘拐事件を五件起こし警察の捜査を撹乱し続けてきた、その血も涙もない犯人の名を生田目太郎という。
 とある偶発的なキッカケから、足掛け八ヵ月ほど、ずっとその事件に影で関わってきた自称マヨナカテレビ特捜本部のメンバーが、生田目を追い詰め、最終的に捕まえて犯人を警察に引き渡して、しばらく経っていた。彼らはそこで事件は全て解決したものだと安堵していた。
 しかし、最後に誘拐され、生田目にテレビの中に突き落とされ、逃げ込んできたヤツの人質にもなった、堂島菜々子の容態が救出後も一向に良くならず、それどころか、つい先程容態が悪化し、幼い生命がそっと消えてしまった。
 菜々子は、特捜部のメンバー八人で構成されているうちの、リーダー、真澄 鵠の従妹であり、同居している為に、他のメンバーとも繋がりがあって、皆がとても可愛がっていた小学校一年生の少女だった。素直でとても心優しくて、菜々子に接する皆が彼女から安らぎを貰っていた。なのに、菜々子とは到底無関係であったはずの生田目の事件に巻き込まれ、そして回復できずに生命を落としてしまった。
 そんなことが許されるのか。
 更に追い討ちをかけるかのように、生田目自身の所業が、誘拐した人をテレビに落とすと言うあまりに荒唐無稽な行為がにわかに常識を持った人々には受け入れられず、容疑を立証できず逮捕にまで結びつかないかもしれないと言うのだ。
 先に変死体として発見されたアナウンサーや小西早紀に次いで、菜々子という幼い生命を奪ったにも関わらず、この男は立件もされずにのうのうと町に出てくるかもしれないのだ。
 こんなことは誰もが許せないと思った。何よりも今、目の前にその犯人が半ば自失状態で座り込んでいるのだ。しかも収容されていた生田目の部屋に置いてあるテレビにはシャドウが映りこみ、俺は何度でも繰り返す。などと言っている。
 明らかにこのまま生田目を見なかったことにし野放しにしては、また悲劇が繰り返されることになるはずだ。自分達がいつでも駆けつけられる場所であるなら、テレビに落とされた人を助けることも出来よう。今までだってそうしてきたのだから。しかし、生田目がもっと別の場所へ引越しした場合に、生田目の同行をずっと監視できるかと言えば、学生である陽介たちに出来るはずがない。
 何度も何度も同じことを繰り返し、しかも警察や今の法律では全く彼を咎めることができないなどという馬鹿げた現実がのしかかってくるのだ。
 警察も法律も当てにならない。
 ならば、ここで生田目から自由を奪えばいいだけじゃないか。幸い自分達には生田目と同じ能力がある。
 この場にいる、全員が全員、そういう思考回路になってしまうのも仕方がない事なのかも知れなかった。
 いつも被っているトレードマークの帽子をくぃっと深く被りなおして、白鐘直斗が己の表情を隠して視線だけをテレビへと向ける。視線の先には五十型の大型液晶テレビが置いてあり、犯人としては随分立派な病室を与えられていると言っても過言ではない。
 その場にいた久慈川りせが物騒な発言に眉を顰めたが、その煮え切らない態度にイライラしたように巽完二が床をドンっと踏みしめた。外見に似合わず、小さな菜々子をとても可愛がっていただけに、菜々子を失ってしまった悲しみの矛先を怒りに変えている。
 
「オメェは、このまま帰れんのかよ」
「それは……、だけど……!」

 りせが形の良い眉を顰めて首を振る。感情では、生田目を殺したいほどに憎いと思ってはいるが、それでも自分達が同じ過ちを犯すことに躊躇いを覚えているから、言葉の歯切れが悪い。
 同じく、幾分冷静に判断出来ているというよりも良心の呵責に耐え切れずに、千枝が頭を掻く。

「このままでいいとか悪いとか……、そういう問題じゃないじゃん!! 何言ってんの……!! そんなこと、できるワケ……!!」
「里中っ!! それにみんなも、聞いてくれ」

 反対する千枝の言葉を遮ったのは陽介だった。陽介は、覚悟を決めた顔で、周囲を見渡した。
 世の中にはとても自分達の力だけではどうにもならないことがたくさんありすぎるのだ。
 その中で筋を通すには己の手を汚すしかないのかもしれない。覚悟したようにその場にいるメンバーの顔を一人ずつ見ていく。

「いいか、やるなら……今しかない。こんな機会、もう二度と巡ってこない」

 いくら田舎の町だとは言え、犯人と被害者が同じ病院に収容されていたこと自体が問題だ。生田目の病室には元々は見張りがついていたはずなのに、何故かこの居場所を聞き出してここへ駆けつけてきた時は、誰も居なかった。恐らく先に行ったはずの菜々子の父親であり、鵠の叔父にあたる堂島遼太郎が、彼もこの事件に関連する事故で大怪我を負っているのだが、それなのに動き回って暴れて傷口が開いてしまい、その場にいた警官達に連れて病室へ戻されている途中なのかもしれない。
 だから、陽介たちは見張りもいない部屋に忍び込むことが出来たのだ。
 そして、生田目と対峙している。

「このままじゃ、コイツは野放しになる。そしてまた”救済”とやらを繰り返す! たった今コイツの”本心”が言ってたろ!? そしたら菜々子ちゃんや先輩みたいに……、また無実の人が何人も死んで行くんだ!」

 ”救済”という名目上、テレビに突き落とし、挙句、シャドウに襲われて死んでいった被害者の中で、二人目の犠牲者だった小西早紀は、陽介の憧れの先輩だった。だから余計に生田目を、陽介は許せないのだ。

「そんなの、俺は見過ごせねぇ……。大切な人殺されて……、償わせる事も出来なくて……、それが繰り返されんのまで見過ごせってか……? 絶対できねえ! しちゃいけねえだろッ!!」
「は、花村……、け、けど……」
「ただ”テレビに落とす”……それだけだ。それだけで、全部終わる」

 簡単なことだった。生田目自身は、呆然自失の状態で、首を振り続けながら、腰を抜かしていて動けない。
 そんな大人一人に対してならば、さして抵抗もなくテレビに突き落とすことが出来るだろう。
 そうすれば、テレビの中の世界、自力では決して出られない迷宮へ生田目を突き落とすことができ、更に霧の日にはシャドウが大暴れして命を落とす危険があるというそれだけだ。
 千枝が陽介から視線を逸らし、生田目を見る。

「お……落とす……だけ……」

 例え直接的に手を下さず、テレビに突き落とすだけであっても、それでも、自分達の手で生田目に罰という名の死を与えたという事実は自分の心の中に残るだろう。
 それが、絶対に自分達がやったという証拠が残らなくても、だ。
 一度刺さってしまった棘は、自責の念でずっと心を傷つけ続けるかもしれない。
 陽介は、もう一度そこにいるメンバー全員の顔を見た。
 千枝、完二、りせ、直斗、そして青褪めた表情で眉間に皺を寄せずっと押し黙っている、天城雪子と、こちらもここへ来て一言も発していない鵠。彼はずっと険しい表情で生田目を睨み続けていた。

「関わりたくないヤツは、出ていってくれ。……無理に付き合う事はない。俺は……コイツを許す気はねえ」

 それが、亡くなった小西先輩と、菜々子へのけじめだと思うから。
 だから、生田目をテレビに突き落とそうと決めたのだ。
 社会の法律に頼りたかったのに、それが叶わないとすれば、己の手で裁くしか手段はない。
 人を殺すという覚悟のないメンバーは別に出て行っても構わないと思った。陽介にとっては本当に憎んでも憎みきれない相手だ。
 亡くなった小西先輩は、陽介がこの町に転校してきた時に、色々と世話になった人だ。ジュネスの店長の息子というだけで、偏見を持たれて嫌がらせを受けて凹んでいた陽介に、「自分は自分だ」と応援してくれた人だ。仄かなコイゴコロも抱いていたのかもしれない。
 けれど犯人に奪われてしまった。
 先輩が亡くなったことを聞いた時、本当に涙が出た。何も出来なかった自分がとても悔しかった。
 そうするうちに警察ですらも恐らくは手に出来ない決定的な証拠を見つけ、そこから犯人を捕まえることが、陽介の中の最重要事項になった。命の危険を冒してでも、第三、第四の被害者を絶対に出さない、かつ、犯人を捕まえる。ただそれだけでずっと突っ走ってきた。それでも犯人の方が上手で、次の被害者の目星がついてもいつもいつも先手を持って行かれてしまっていたのだ。
 そして、菜々子が失踪した。
 すぐに手がかりを見つけ助けに行ったのに、菜々子は衰弱し助からなかった。何とか犯人を見つけ出し、ようやくチェックメイトまで持って来れたというのに、結末がこれでは話しにならない。
 更に、陽介が一番心配だったのは、菜々子をとても可愛がっていた兄的存在である鵠のことだ。
 鵠は、四月に入って都会の方から引越してきた陽介と同じ立場の転校生で、好奇心から入ったテレビの中で陽介と供に様々な体験をしてきた掛替えのない親友であり、自慢の相棒である。
 転校してきてから早々に学年トップを飾り、運動神経も抜群。人当たりがよく誰にでも優しい為に、他人のウケが非常に良い。
 そんな鵠が、菜々子が失踪し、それを助けて尚、病院で入院し続けている状態が続く中、表面上はいつもと変わらず人当たりの良い好青年を演じつつも、一方で何もかも投げやりな生活を送っていることを陽介は知っていた。
 可愛がっていた菜々子を助けられなかったという自責の念が鵠を襲っているのだ。
 日に日に精彩を欠いていく鵠自身が見ていられなかったし、恐らく自分達以上にこういう状況を作ってしまった生田目を憎く思っているのは間違いない。
 だが、彼はその苦しみや憎しみを表面に決して出さないのだ。だから、陽介は鵠の気持ちの代弁をしたと言ってもいい。
 例え、どんなに怒りを感じていても、他の誰もが反対しても、何を犠牲にしてでも生田目をテレビに突き落としたいのは、自分と鵠以外にはいないと、思っている。
 険しい表情で生田目を睨み続けていた鵠がようやく陽介を見る。

「否、これは俺がやる」

 形の良い唇が紡ぎだした言葉は、陽介が提案した意見に対する肯定ではなかった。
 そして反対でもなかった。

「え……?」
「ちょっと、真澄くん?」

 鵠の返答に、動向を見守っていたメンバー全員が息をのんだ。
 カツコツと固い響きを立てて、鵠が生田目の近くに歩み寄る。ヒィッと情けない声を上げて、生田目が後ずさった。

「コイツは犯してはならないことをやった。それに対する罰は必ず受けなければならない。社会的に罰せられないなら、この俺が罰を与えてやる。お前等はこの部屋から出ろ」

 ポツリポツリと静かに生田目に語りかけるように鵠は淡々と呟く。決して声を荒げたり、怒りを滲ませているわけではなく、むしろ感情を一切含んでいないのに、逆にそれが鵠の決意のように聞こえる。

「待て、俺も一緒に落とすって言ってるだろ。お前だけが罪を被ることはねーんだよ」
 
 陽介がとっさに鵠の肩を掴み、動きを止める。
 それに呼応するように、雪子も口を開いた。

「そ、そうよ、ここにいる私たちは全員共犯者なの。真澄くん一人だけに、そんなことはさせられないわ」
「オレもそう思うッスよ、先輩。だから一人でやるとか言わないでくれ」
「僕も花村先輩や天城先輩に同意です。生田目は真澄先輩だけの敵ではありません。僕達全員の敵であり、そして憎しみの対象でもあります。菜々子ちゃんの死は僕達だって悲しいです」

 完二も直斗も立ち止まって振り向かない鵠の背中に語りかける。
 鵠は一応皆の言葉を聞いているのか、立ち止まったまま振り返りはしなかったが、それ以上は足を踏み出さなかった。

「あたしは、出来れば一時的な感情に流されて欲しくない。けど、それでも真澄くんが決めたのなら、その意向に賛成するよ」
「わ、わたしも、覚悟決めたよ、センパイ。だから全部一人で背負わないで」

 千枝もりせも、信じるリーダーの決断だからこそ、それに反対するつもりは一切無い。
 生憎、クマだけは菜々子の病室に残ったらしく、ここまで一緒に来てはいない。そんなことに、今更ながら陽介は気がつく。
 陽介達を排除してたった一人で生田目をテレビに落とすという鵠を何としても止めなければならない。
 一人で殺人という罪を被るには、とても重すぎて、そしてそれを知っていて見て見ぬ振りなど、今まで一緒に様々なことを切り抜けてきた仲間だからこそ、出来るはずがない。

「なぁ、皆アイツを落とすことに賛成したぜ? だから、お前一人だけでやる、なんてこと言うな。ほら、全員でやれば怖くないって言うだろ?」
「……俺は大丈夫だ」

 陽介が肩に置いていた手を軽く握った後、鵠はその手を振り払い、こちらを振り返った。
 
「あの男はどうしようもないクズだ。お前達の手を汚す必要はない。これはリーダーである俺からの命令だ。全員、外に出ろ」

 顎で出口を指し、鵠はポケットに両手を突っ込んでいる。リーダー命令と言われれば、どんなに納得がいかなくても、従わなければならないのが、メンバー中の暗黙の了解となっていた。
 普段はこういうことで、リーダー命令など、不当なことを絶対に言ってこない鵠である。
 今回の件は、鵠がとても可愛がっていた菜々子のことも関与しているため、何を言っても、譲る気はないのだ。

「でもッ……」
「……行こう、千枝。真澄くんがそう言ってる。任せて、いいのよね? 真澄くん」
「ああ」

 尚も食い下がろうとする千枝の右手をそっと握って、雪子が小さく頭を振った。納得は出来ないけれど、鵠の気持ちも分からないでもないのだ。
 それに、覚悟を決めたとしてもこの手に人の生死に関わることに直接的に関わらなくて、ホッとしている部分もある。今はどんなに感情を優先したとしても、後から冷静になったときに理性が悲鳴を上げることだろう。

「……分かりました。僕達も外に行きます。巽君も久慈川さんも行きましょう」

 直斗もしばらく考えた後に、そう告げると、りせや完二を促して、出口に向かう。
 不満はあれど、鵠が決めたのならば、それに従うまでだ。仲間に入れてもらえなかったのは残念だが、鵠の生田目を恨む気持ちはそれほどに根深い。
 りせも完二も何か言いたそうに、チラチラと鵠を見ていたが、いつもの雰囲気と全然違う怒気を纏う鵠に気圧されて何も言えない状態ままだった。

「本気で、一人でいいのか?」
「さっき、陽介だって言っただろう? ただ、落とすだけだ。それくらいなら、俺一人でできるさ」
「けどッ」
「陽介に小西先輩の敵を直接討たせてやれなくてごめん。それだけは申し訳ないと思っている」
「……分かった、じゃあ、俺達は外で待ってるぜ」
「……ああ」

 こんな所で、謝られても困ると、陽介は思った。
 敵を取らせてやりたいと思っているのならばせめて、自分だけは部屋から出ていくなと言えばいいだけなのに、それすらも言わない。つまり、譲る気はないということだ。
 小さく溜息を吐き出して、陽介は軽く肩を竦めた。
 落とすだけと認識できているのであれば、生田目に対してリンチ紛いのことをするようなことはないだろう。
 とっととやることやって、出てこいと言う意味を込めて、陽介は敢えて「待っている」と伝えた。
 鵠一人にだけ、罪を被せる気はない。
 中で何が起ころうとも、それを知っているのだぞと、無理矢理共犯者を他の全員とともに背負うつもりだった。
 恐らく、この病院へ来てから初めて鵠は、小さく笑った。
 その苦笑いの顔がいつもと同じだったので、陽介はホッと安堵する。
 そして、病室の外に出た。
 そこには、先に出ていった、千枝や雪子、それに直斗、完二、りせの五人が不安げな顔をして待っていた。
 陽介はパタンと、静かに扉を閉めると、大きくを吐き出した。

「お前等、ンな、心配そうな顔しなさんなって」
「だって、センパイ一人でやるなんて……」
「そうですね、けど、僕も心配です」

 大きな目にいっぱいに涙を溜めたりせが、直斗にそっとハンカチを渡されて、鼻をかんだ。
 千枝は納得がいかないように、首を捻る。

「ね、ホントに良かったの? 真澄くん一人に任せて……、今日の真澄くん、いつもの余裕が全然なかったよ?」
「そりゃ、菜々子ちゃんがあーなっちまったら、いくら先輩でも余裕なんかなくなるっすよ」

 平素ならば、あんな怒りを露わにした鵠の姿など目にしたことはない。どんな時でも冷静に、時には先走ってしまいがちな仲間のストッパーとして、一歩引いた位置で見守ってくれていたようなリーダーが、一人だけで何かを成すという、それ自体が珍しいことだった。
 しかし、本当に少し前に起こった悲劇を考慮すれば、鵠も所詮は人の子だったということだろうか。

「ね、真澄くんは後悔しないのかしら?」
「おそらく、一時的な感情が支配している間は、後悔など考えもしないでしょう。しかし、どんなに真澄先輩が厚顔無恥な人であろうと、あ、勿論これは喩えです。僕だって先輩がそんな人ではないことは重々承知しています。だからこそ、よけいに、全てが終わった後に、ひどく落ち込まないか心配です……」

 直斗はやりきれないと言ったように、小さく首を振った。
 鵠が、誰よりも心が広く優しい人だと言うことをここにいるメンバー全員が知っていることだ。他のどんな人達よりも一番自分達が鵠と深く行動を共にしてきたのだから。
 しん、と辺りが静まり返る。元々、もう深夜を過ぎている時間帯な上に、この階には、ここの特別な部屋しかないので、人通りすらない。
 本来ならば、家に帰るには遅すぎる時間だったが、菜々子のことで慌ただしく時間が流れていき、さらに生田目の件で、さらに帰る機会を逸してしまった。
 今は、ただ、鵠がこの部屋から出てくるのを待つだけである。待っていろとは言われていないので、帰ってもいいのだが、当然誰一人として帰る者はいなかった。
 落ち込んでしまった空気を盛り上げようと、りせがぽんと手を打った。

「も、もしセンパイが、落ち込んだときは、わたし達でセンパイを元気づけてあげたらいいんだよ!」
「そうだな、俺達は生田目の件は真澄に任せたけど、これは俺達全員の総意だ。真澄一人だけの責任じゃねえ。俺達は共犯者になるんだ」
「そうっスね、どうせ生田目は行方不明になる。そして、生きてあそこからは出られねぇ」
「出てこれるのは、物も言わぬ遺体となったときだけ……か。やっぱりそれでも何だかやりきれないね」
「こんな、後味の悪い結末なんて、誰も望んじゃ居なかったのにね……」

 千枝が小さく息を吐き出す。
 きっかけは、確かに閉塞的な田舎で殺人事件という、町中を震撼させる事件が起きたことだった。その第二の犠牲者は同じ高校の、一つ上の先輩で、決して無関係の人の死ではなかったというのも大きい。
 それとは別に、町に噂が流れていて、それを実行すると未来の相手が見えるなどと言う、ありそうでなさそうなそんな噂を実行したことがきっかけで、テレビの中に入れる特殊能力とペルソナ能力を開眼したのが、鵠だった。
 その中で、謎の生物クマと出会い、そして決定的な犯人がこちらに犠牲者を落としたという証拠を掴んだ。
 警察や常識だけでは決して犯人に結びつかないだろう事件は、鵠達の手で解決させようと結束したのが、マヨナカテレビ特捜部だったのだ。
 相次ぐ失踪と、ペルソナの開眼。いつしか、犯人とは直接的なやりとりどころか、犯人像すらおぼろげにしか見えてこなかったが、最終的に行方不明になった人をテレビの中で助けることで、それ以降の犠牲者を出すことなく追いつめることができた。
 否、模倣犯であった久保美津雄が陽介達の担任である諸岡を殺してしまったことで、第三の犠牲者は出してしまった。しかしこれに関しては、ノーマークであった為、陽介達ではどうしようもなかったとしか言いようがない。
 正直、犯人を捜している間は、ゲーム感覚でもあり、かなり面白かったと言えよう。真犯人の捜索は自分達にしかできない使命であり、最優先事項だったからだ。
 けれど、ようやく犯人を捕まえたのに、菜々子は死に、犯人だった生田目は証拠不十分でこのまま解放される可能性が高いという。実際に菜々子をテレビに入れたのも、雪子や完二、りせ、直斗をテレビに入れたのもこの男で、アナウンサーや小西先輩をも殺しておきながらのうのうとお天道様の下を歩ける身の上になるとは、余りに滑稽ではないか。片腹が痛すぎる。
 けれど、一時的な感情に流されて生田目を殺したところで、菜々子や先輩が帰ってくるわけではないのだ。
 それは分かっている。
 だからといって、生田目に何もしないで終わりにするなんてこともできなくて、一番後味の悪い選択しかなかったのだ。

「これから先、あいつの所為で犠牲者が出ることはないって思うしかねーよな」
「そうですね……」

 六人もその場にいるのに、どうしても会話が途切れがちになってしまう。
 また沈黙がおりて、陽介は自分の携帯をフッと見た。
 時間はすでに午前一時半を回り、随分遅くなってしまっている。
 明日というか今日は日曜で休みだし、明後日も学校の創立記念日なので二連休だし、夜更かしに問題はないのだが、何か足りないことに気づいた。
 陽介はキョロキョロと辺りを見回す。

「そういや、クマ吉はこっちに来なかったんだな」
「クマ君、菜々子ちゃんの側にいたいって確か残ったはずだよ」
「あー。そういえば、俺何か、八つ当たりでクマにひでーこと言った気がする……」

 千枝に教えてもらってから、陽介は思いだしてしまった。
 菜々子の容態が悪化したときに、お前の世界で起こったことなのだから何とかしろと、言った。クマはいろいろ考えてるけれど何もできないと首を力なく振っていただけだった。
 どんなに成す術がなくても、クマに八つ当たりは余りに残酷だった。後から謝らなくては……と陽介は頭を掻いた。
 千枝がフォローを入れるように、肩を軽く叩いてきて、それに頷く。

「真澄くんが戻ってきたら後で一度菜々子ちゃんの病室に戻ってみようよ」
「ああ、そうだな。けど、真澄の奴、落とすだけって言ってたのに、随分遅いな……」

 陽介が、生田目の部屋を出てからすでに三十分は経過していた。
 
「……確かに、落とすにしても、生田目が抵抗したような物音も聞こえませんでしたし、時間が経ちすぎているように思えます」

 直斗も自分の腕時計を確認して、陽介を見る。

「をいをい、何だよ、今度は何だってんだよ」
「完二、大声出さない。ね、花村センパイ、センパイ、どうしちゃったの?」
「……分からねー。真澄の事だから、落とすと決めて、土壇場になって躊躇うとかそんな揺らぎもないはずだ。だとすれば、この中で何か起こってるのかもしれねー」

 何かイヤな予感がする。イヤな予感とはこう言うときは、大概無慈悲にも当たるものだ。
 陽介の背中を雪子がツンツンとつついた。

「ね、真澄くん、出ていけとは言ったけど、その後入ってくるなとは言ってないよね?」
「あ、そっか、そうだよね、じゃあ中覗いても大丈夫かな?」

 ポンと手を打った千枝が、病室のドアノブに手をかける。
 誰もが、中の様子が気になって仕方ない状態で異論はなく、誰も止めようとしなかった。
 ガチャリとノブが回り、鍵はかけていなかったので当然簡単に開いた。勢いに任せて千枝がドアを開く。

「真澄くん!」

 部屋の中に最初に一歩踏み入れたのは、一番近くにいてドアノブを手にしていた千枝だった。
 ごぉっと、強い風が千枝を襲う。が、千枝の体を傷つけることなく、すり抜けていっただけだ。

「え……?」

 無駄に広い病室の中をざっと見回して、千枝は己の目を疑った。
 後ろから続けて、陽介、完二、りせ、雪子、直斗の順番で中へ入ってくる。
 そして皆千枝と同じような反応をして、立ち止まった。

「な、何で……」
「セン……パイ?」

 イヤな予感が当たってしまった。
 陽介は、唇を噛む。
 病室には、テレビの前で腰を抜かしたまま座り込んだ生田目以外、誰一人として居なかったのである。

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同人誌「雨に滲む海の裏側」より冒頭抜粋。
煌椰の話の方。

作品名
クリスタルクラウン(同人サンプル)
登録日時
2009/08/03(月) 10:28
分類
ペルソナ4::SS(煌椰)
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